岡本綺堂「番町皿屋敷」を読む

熊本で、月1回くらいのペースでリーディングワークショップを開催しています。

内容としては、30〜60分ほどで読み終わる戯曲を1本選んで持っていき、それを2時間くらいかけて読むというものです。大抵は、まず1度みんなで回し読みをしてみて、その後に感想を言い合います。そして今度は役を割り振ってもう一度読む、といった具合で進めていきます。

僕は一応ファシリテーターという形で参加しており、戯曲の選定と、軽い解説を担当しています。

なぜ「番町皿屋敷」なのか?

このリーディングワークショップは過去に5回以上は開催しているのですが、戯曲の選定には毎回苦労しています。

というのも、まず短い戯曲というのがほとんど無い。有名な戯曲はだいたいが2時間近い上演時間になっているので、このリーディングワークショップで取り上げるのにあまり適していません。

戯曲デジタルアーカイブでは上演時間を絞って探すことができるのですが、ある程度は有名な人物の作品をやった方が良かろうということになると、なかなか適合する作品が見つかりません。

そこで、青空文庫などを使って戯曲を探すことになるのですが、これもなかなか難しい。というのも、やはり明治〜昭和初期の戯曲となると、言葉遣いが馴染みにないものだったり、社会風俗が良く分からなかったりして、読み進めるのがなかなか難しいのですね。

そういう観点からすると、実は岸田國夫の戯曲はかなり丁度良く、言葉遣いはやや難しいものの、ドラマがあって読み終わると「読み終わったな〜!」という感じがします。こういう、一人で読むのは正直ちょっとしんどいけど、皆で読んでみると読み切れるし、意見を交換すると理解も深まって良かったね、というくらいのやつが丁度良いのです。

しかし、岸田國夫の戯曲に関しては前回「かんやく玉」を上演したので、2回連続でやるわけにはなあ……と思っていました。

そこで、青空文庫の分野別リストの「戯曲」を見ていたところ、見知った名前を見つけました。それが岡本綺堂です。

岡本綺堂は、個人的には「半七捕物帳」のイメージが強く、そういうエンタメ小説を書いている人だという認識でした。しかし、この戯曲のリストを見てみると、「番町皿屋敷」を書いているではないですか。

古典のエンターテインメントに疎い僕でもさすがに番町皿屋敷のことは知っていて、「あれでしょ? いちまーい、にまーい、でしょ?」という感じでした。まあ、本編の話を知っているというより、落語の「お菊の皿」で知っていたという方が正しいのですが……。

ぱらぱらと中身を読んでみれば、40分くらいあれば全編読み終えることができそうで、リーディングワークショップには丁度良さそうです。そこで、この戯曲を採用することにしました。

「番町皿屋敷」について調べたこと

しかし、恥ずかしながら岡本綺堂についても「番町皿屋敷」についてもあまり知識がありません。そこで、色々と調べてみることにしました。

「番町皿屋敷」は歌舞伎用に書かれた戯曲で、歌舞伎座のWebサイトなどを見てみると、今でも定番の演目として上演されているようです。先ほども書いたように、僕は岡本綺堂に対して「半七捕物帳」のイメージしか無かったのですが、どうやら新歌舞伎の発展に貢献した人物のようですね。ということが、手元にあった『新潮日本文学辞典」の岡本綺堂の項目を読んで分かったことです。

その他にも、『広辞苑』を引いてみて「へ〜、そういう風に紹介しているんだ〜」などと思っていました。もっとちゃんと調べたような気がしたのですが、事前に調査した内容といえばこれだけでした。次のワークショップからは、もっとちゃんと調べよう……。

実際に読んでみて

実際に「番町皿屋敷」を読んでみて、今回は過去一番の盛り上がりだったような気がします。

まず、なんと言っても話が面白い。特に第二場が面白くて、印象的なシーンが出てくるたびに皆で「きゃ〜!」と言いながら読みました。おそらく、事前知識も無しに歌舞伎の本番を見たのではこうは行かなかったはず。僕も歌舞伎を実際に見たことがあるのですが、話の筋が分からないと、何を話しているのか、何が進行しているのかほとんど分からないのですよね……。しかし、今回はト書きも含めて読んだり、事前に読んでいた僕が軽く解説をしながら読んだりしたので、シーンの内容を抑えながら読めたのではないかと思います。

また、難易度としても丁度良かったと思います。本当は三島由紀夫の『近代能楽集』に入っている戯曲を読むことも検討していたのですが、事前に読んでみた感じだと、ドラマ的な要素が多くはなく、現段階ではなかなか難しいのではないかと感じて見送りました。しかし、「番町皿屋敷」は言葉遣いこそ古いのでやや難しいものの、内容はかなりドラマ的で分かりやすいものになっています。そのあたりが、かなり理解しやすかったのではないかと思います。

しかし、個人的には『近代能楽集』もかなりやりたいなと思っているので、リーディングワークショップの回数を重ねて会全体の読解力を上げながら、あるいは僕から何かしら面白い視点を提供する方法を考えて、こちらも取り上げたいと思っています。